ひとことで言うと:グラフェンの作り方は、黒鉛(グラファイト)の層をはがして作る方法と、炭素の原子から組み立てて作る方法に分かれます。電子部品向けの大きな一枚は組み立てる方法(CVD など)、繊維や塗料に混ぜる粉末ははがす方法で作るのが一般的です。
1. 2つの考え方
グラフェンは、炭素原子が六角形に並んだ厚さ1原子のシートです。鉛筆の芯の黒鉛は、このシートが何百万枚も重なったものです(詳しくはグラフェンとは)。そのため作り方は、次の2つに分かれます。
- トップダウン(はがして作る):黒鉛の層をはがして、薄いシートを取り出す。粉末や分散液を大量に作るのに向く。
- ボトムアップ(組み立てて作る):炭素を含むガスや分子から、シートを一枚ずつ育てる。大きく均一な一枚を作るのに向く。
2. はがして作る方法(トップダウン)
機械的はく離(テープ法)
セロハンテープを黒鉛に貼ってはがすことを繰り返し、一枚だけのグラフェンを取り出す方法です。2004年に英国マンチェスター大学のガイム教授とノボセロフ教授がこの方法でグラフェンを取り出し、2010年のノーベル物理学賞につながりました。品質は最高ですが、ごく少量しか作れないため、研究用に限られます。
液相はく離
黒鉛を液体の中に入れ、超音波や強いかき混ぜ(せん断)の力で層をはがす方法です。薬品で酸化しないため、グラフェン本来の性質を保ちやすい一方、一枚までばらしきるのは難しく、数層のものが多く混ざります。
電気化学はく離
黒鉛を電極にして電気を流し、層の間にイオンを入り込ませてはがす方法です。比較的短い時間で作れる方法として研究と量産化が進んでいます。
酸化還元法(化学法)
黒鉛を強い酸と酸化剤で処理して酸化グラフェンにし、層をばらしてから、還元して酸素を取り除く方法です。代表的な酸化の方法はハマーズ法です。大量に作りやすく市場で多く使われていますが、還元しても網目の欠陥や酸素が残ります。できあがるのは厳密には「還元型酸化グラフェン(rGO)」です。詳しくは酸化グラフェンとはで説明しています。
物理はく離(純物理法)
薬品を使わず、物理的な力だけで黒鉛の層をはがす方法です。強い酸を使わないため化学的な残留物が出にくく、グラフェン本来の性質を保ちやすいのが特長です。当社はこの方法でグラフェンを作っています(後述)。
3. 組み立てて作る方法(ボトムアップ)
CVD(化学気相成長)
銅などの金属の薄い板を高温に熱し、メタンなどの炭素を含むガスを流すと、金属の表面にグラフェンが一枚ずつ育ちます。2009年に銅の箔の上で大面積のグラフェンを作る方法が報告され、広く使われるようになりました。大きく均一な一枚が作れるため、透明電極や電子部品の研究に向きますが、設備と手間がかかり、ほかの材料に移す工程も必要です。
SiC 上のエピタキシャル成長
炭化ケイ素(SiC)の結晶を高温に熱すると、表面のケイ素が抜けて、残った炭素がグラフェンになります。結晶の上に直接グラフェンができるため電子部品の研究に使われますが、基板が高価です。
化学合成
小さな有機分子をつなげて、決まった形のグラフェン(ナノリボンなど)を組み立てる方法です。原子の並びまで設計できますが、研究段階です。
4. 製法の比較表
| 製法 | 品質 | 量 | コスト | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 機械的はく離 | 最高 | ごく少量 | — | 基礎研究 |
| 液相はく離 | 高い(数層が多い) | 中〜多 | 中 | 導電インク・複合材料 |
| 電気化学はく離 | 中〜高 | 中〜多 | 中 | 電池材料・導電材 |
| 酸化還元法 | 欠陥・酸素が残る | 多 | 低〜中 | 電池材料・塗料・複合材料 |
| 純物理法 | 化学的な残留物が出にくい | 多 | 中 | 繊維・複合材料・量子ドットの原料 |
| CVD | 高い(大きな一枚) | 面積あたり | 高 | 透明電極・電子部品 |
| SiC 上の成長 | 高い | 少 | 高 | 電子部品の研究 |
※ 一般的な傾向をまとめたものです。同じ製法でも、条件や会社によって品質と価格は大きく違います。
5. 当社の純物理法
当社(J.C. Technology)のグラフェンとグラフェン量子ドットは、自社の研究開発・製造拠点(中国)で、強い酸を使わない純物理法により生産しています。酸化の工程を経ないため化学的な残留物がなく、炭素純度は99.9%です。
作ったグラフェンは、ポリエステルやナイロンの糸に練り込んだグラフェン複合繊維や、さらに小さな粒にしたグラフェン量子ドットとして供給しています。
6. 品質を見るポイント
グラフェンには、まだ業界全体で統一された「等級」がありません。素材を比べるときは、次の項目を確かめるのが一般的です。
| 項目 | 何が分かるか | 主な測り方 |
|---|---|---|
| 層の数 | 単層・数層・多層(ナノプレートレット)のどれか | ラマン分光、原子間力顕微鏡(AFM)、透過電子顕微鏡(TEM) |
| シートの大きさ | 横幅がどれくらいか | 電子顕微鏡、レーザー回折 |
| 網目の欠陥 | 六角形の網目がどれだけ乱れているか | ラマン分光(D バンドと G バンドの比) |
| 酸素の量 | 酸化された部分がどれだけあるか | X線光電子分光(XPS) |
| 表面積 | 重さあたりの表面の広さ | ガス吸着(BET 法) |
| 不純物 | 金属や薬品の残り | 元素分析、灰分 |
国際標準化機構(ISO)などでは、用語の定義や測り方をそろえる取り組みが進んでいます。
7. 用途に合った製法の選び方
- 電子部品・透明電極:大きく均一な一枚が要るため、CVD などのボトムアップが中心。
- 電池・導電材:量と電気の通しやすさのバランスで、液相はく離・電気化学はく離・酸化還元法が使われる。
- 繊維・樹脂・塗料に混ぜる:量が要り、混ぜたときの性能が大事。はく離法の粉末やナノプレートレットが中心。
「いちばん高品質なもの」がいつも最適とは限りません。用途に必要な性能と、量・コストの釣り合いで選ぶことが、実用化の近道です。用途に合わせた素材のご相談はお問い合わせください。グラフェンが実際に何に使われているかはグラフェンの用途にまとめています。
8. よくある質問
- グラフェンはどうやって作るのですか?
- 黒鉛の層をはがして作る方法(機械的はく離・液相はく離・電気化学はく離・酸化還元法・物理はく離)と、炭素を含むガスなどから組み立てる方法(CVD・SiC 上のエピタキシャル成長・化学合成)があります。
- グラフェンは家庭でも作れますか?
- セロハンテープで鉛筆の芯の層をはがすことはできますが、一枚だけのグラフェンを取り出して確かめるには、顕微鏡などの専門の設備が必要です。
- 量産に向いている製法はどれですか?
- 粉末や分散液として大量に作るには、液相はく離・電気化学はく離・酸化還元法・物理はく離など、黒鉛をはがす方法が向いています。大きな一枚を作るには CVD が使われます。
- CVD とは何ですか?
- 化学気相成長の略で、高温にした銅などの金属の板の上に炭素を含むガスを流し、表面にグラフェンを一枚ずつ育てる方法です。大きく均一なシートが作れます。
- 酸化還元法で作ったものはグラフェンですか?
- 厳密には還元型酸化グラフェン(rGO)です。酸化グラフェンから酸素を取り除いたものですが、網目の欠陥や酸素が残るため、グラフェン本来の性質とは違いがあります。
- 純物理法とは何ですか?
- 薬品を使わず、物理的な力だけで黒鉛からグラフェンをはがし取る製法です。強い酸を使わないため化学的な残留物が出にくく、グラフェン本来の性質を保ちやすい方法です。当社はこの方法で生産しています。
- グラフェンの品質は何を見ればよいですか?
- 層の数、シートの大きさ、網目の欠陥(ラマン分光の D バンドと G バンドの比)、酸素の量(XPS)、表面積、不純物を確かめるのが一般的です。